「ビスケットと素焼きカップの不思議な習わし」／インドとネパール
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１９７５年３月２５日 ポカラからインド国境へ
◆ネパール・ポカラ → 国境の町「ソノリ」 → インド鉄道駅「ノータンワ」
ポカラからネパール国境の町ソノリまでバスで行き、徒歩で国境を越えバスでインドの鉄道駅ノータンワへ。情けないことに僕のノートは何故か大切なことが記されていない。「国境ノーパンはダメ！ノータンワ！」って、今読むとバカかお前はと自分に言いたい。おかげさまでインドでは「リキシャ」と同じように馬鹿を「バカ」と発音することを思い出した。
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◆インド式コーヒー／「マドラスコーヒー」と「Nestleコーヒー」
同じページにテッドのアドレスが記されていたが、インドのどの街で会ったのか正確に覚えていない。ホテルの庭のようなところで一緒にコーヒーを飲んだ記憶はある。
マドラスコーヒー35パイサ、Nestleコーヒー70パイサとメニューにあった。コーヒーの違いが気になり両方を注文した。インドはチャイしかないと思っていたので意外だった。
マドラスコーヒーは、インド産のコーヒー豆を使った甘いミルクコーヒーで、香りもよく美味しかった。一方Nestleコーヒーは、Nestleと印刷された5センチほどの缶とお湯が入ったポットとミルクが別々にきて、自分で合わせて飲むようだ。缶の大きさからすると数杯分はありそうだし、レトロな缶はお土産に持って帰れるかも知れないと想像したが、ふたを開けるとやっぱりインドだった。中にインスタントコーヒーの粉がスプーン一杯分だけ入っていた。Nestleのインスタントコーヒーの方がインドでは高級らしい。Nestleは英国かアメリカの会社だと僕は思っていたが、テッドがスイスの会社だと教えてくれた。
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◆ビスケットと素焼きカップの不思議な習わし
インドでテッドと話した記憶から、僕はソフィーとの不思議な体験の続きを思い出した。スイスはソフィーの国だから。僕たちがボートに乗った後で、写生を仕上げるために彼女のホテルへ寄った。
そのホテルは、僕が泊まっていたセンターヴィレッジより高そうで、メイドさんらしい女性がテラスにティーセットを運んできた。その人は紅茶を淹れると、器の中のビスケットをスプーンで叩いて割った。さりげなくやったことが不思議で二人で理由を聞いた。
旅人が出会い互いに心を通わせた時、（ビスケットのような）食物を割って分かちあい、破片の数だけ思い出を語りあったという伝説から生まれたティータイムの習慣だそうだ。また、新しいビスケットをその場で割るのは神聖である証としてだと彼女は言葉を選びやさしく話してくれた。その女性の話がきっかけで、素焼きのカップを叩き割るインドの慣わしに、僕は思いがけない心境の変化があった。
インドで飲むチャイは、素焼きのカップかグラスのどちらかに入ってくる。道端では、たいてい素焼きのカップを使っている。素焼きのカップでチャイを飲んだ後は地面に叩きつけてカップを割らなければならない。遠慮は無用だ。勢いよく投げつけても、さらりと投げ捨ててもいい。カップを壊してしまうことには少し抵抗感があったけれど、衛生上の事情ではないかと思っていた。
しかし、素焼きのカップを壊すことはインドの人々にとって神聖なことなのかも知れない。素焼きのカップでチャイを飲む度に、神聖な心の世界観が伝わってくる気がした。神聖なるものが清楚に生きる人々の心の中にたくさんあるのだと僕は思うようになった。ネパールもインドも凄い。
（kondo）
＊ソノリ／sonauli ・スノウリ・ソノ―リ
＊１ルピー＝１００パイサ
＊当時の１パイサ＝0.4円
＊当時のツーリストバンガロー／７５パイサ
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